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緒言:分析か、共感か。それが問題だ
「課題解決思考」と「デザイン思考」。近年、ビジネスの世界で頻繁に耳にするようになったこれらの思考法は、どちらも複雑な問題を解決し、価値を創造するための強力な武器です。しかし、その哲学とアプローチは、似ているようで大きく異なります。
- 課題解決思考は、既知の問題を深く掘り下げ、原因を特定し、最適な解決策を導き出す、いわば「分析的な外科医」です。
- デザイン思考は、ユーザー自身も気づいていない未知のニーズを探り当て、全く新しい価値を創造する、いわば「共感的な探検家」です。
これらは対立するものではなく、むしろ互いを補完し合う関係にあります。本稿では、2つの思考法の違いと共通点を明確にし、それらをいかに使い分けるか、そして組み合わせることで、いかにイノベーションを加速できるかを解説します。
核心的な違い:問題との向き合い方
両者の最も大きな違いは、「問題」をどう捉えるか、その出発点にあります。
課題解決思考 (Problem-Solving Thinking) | デザイン思考 (Design Thinking) | |
---|---|---|
出発点 | 明確な問題 (例: 「Webサイトの離脱率が20%増加した」) | 曖昧な状況や人間 (例: 「ユーザーの読書体験をより豊かにするには?」) |
思考の型 | 収束思考 (Convergent Thinking) | 発散思考 ⇔ 収束思考 |
主な問い | 「なぜ問題が起きたのか?」(Why) | 「ユーザーにとって本当に価値あることは何か?」(What if) |
プロセス | 線形的・構造的 (As-Is/To-Be, 原因分析, 解決策) | 反復的・循環的 (共感, 定義, 創造, プロトタイプ, テスト) |
ゴール | 問題の根本的解決、最適化 | 新しい機会の発見、イノベーションの創出 |
課題解決思考が「正しく問題を解く (Solve the problem right)」ことに主眼を置くのに対し、デザイン思考は「解くべき正しい問題を見つける (Find the right problem to solve)」ことから始めます。前者が論理と分析を武器に「答え」を導き出すのに対し、後者は共感と創造を羅針盤に「問い」を探求するのです。
いつ、どちらを使うべきか?
それぞれの思考法には、得意な領域があります。
課題解決思考が有効な場面:
既存のシステムやプロセスを**「改善・最適化」**する場面で絶大な効果を発揮します。
- 業務プロセスの効率化
- 製品の品質改善、バグの修正
- コスト削減計画の策定
- 目標未達の原因分析と対策
問題の所在が比較的明らかで、データに基づいた論理的な分析が有効な場合に適しています。
デザイン思考が有効な場面:
**「新しい価値を創造」**する、不確実性の高い場面で真価を発揮します。
- 新規事業・新製品の開発
- 既存製品のブレークスルーとなるアイデア創出
- 複雑で、前例のない社会課題への挑戦
- 顧客体験(CX)の根本的な見直し
何が問題かすら分かっていない、あるいは様々な要因が絡み合う「厄介な問題(Wicked Problem)」に取り組む場合に不可欠です。
最強の組み合わせ:思考のハイブリッドモデル
最も強力なのは、この2つの思考法を対立させるのではなく、一つのプロセスとして統合することです。
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【探索フェーズ】デザイン思考で「解くべき問い」を発見する 市場が成熟し、顧客のニーズが多様化した現代において、多くのビジネスチャンスは顧客自身も気づいていない「潜在ニーズ」に眠っています。まずはデザイン思考の「共感」と「問題定義」のプロセスを用いて、この潜在ニーズを探り当て、本当に解く価値のある「正しい問題」を設定します。
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【実行フェーズ】課題解決思考で「最適な答え」を導き出す 解くべき問題が定義されたら、今度は課題解決思考の出番です。設定された問題を「あるべき姿」と「現状」のギャップとして捉え直し、「なぜなぜ分析」や「ロジックツリー」で真因を徹底的に分析。そして、最も効果的・効率的な解決策を策定し、実行計画に落とし込みます。
デザイン思考が「何を(What)作るべきか」を見つけ、課題解決思考が「どうやって(How)作るか」を最適化する。この連携こそが、現代のイノベーションにおける王道パターンと言えるでしょう。
結論:両利きの思考を身につける
課題解決思考とデザイン思考は、車の両輪のようなものです。片方だけでは、まっすぐ、そして力強く前に進むことはできません。
- 日々の業務改善では、課題解決思考で効率と精度を高める。
- 未来の価値創造では、デザイン思考で常識を打ち破る。
そして、最も重要な局面では、2つの思考法を自在に行き来する。この「両利きの思考」を身につけることこそが、変化の激しい時代を生き抜き、継続的に価値を生み出し続けるための、最も確かなスキルなのです。