研究活動
東京大学大学院 学際情報学府 葛岡・鳴海研究室に所属し、 VR/ARを用いた身体性の拡張に関する研究を行っています。
研究テーマ
1. 自由エネルギー原理 / Free Energy Principle (FEP)
概要
自由エネルギー原理は、脳が感覚入力を最小限の「驚き(サプライズ)」で説明しようとする予測的符号化の枠組みを数学的に定式化した理論です。 本研究では、FEP をヒューマン–コンピュータインタラクション (HCI) と VR システム設計に応用し、ユーザ状態の推定と適応的フィードバックを実現することを目指しています。
研究課題
- 内部モデルの同定: VR 体験中のユーザが持つ知覚モデルをどのように推定するか?
- アクティブインファレンス: 行動選択と感覚予測を統合した制御モデルを実装できるか?
- VR酔い低減: 誤差予測に基づく動的な視覚・前庭刺激調整は VR 酔いを抑制できるか?
主な手法
* 変分ベイズ推論および深層生成モデルによる状態推定 * ユーザの生体信号(心拍、筋電位)を用いたオンライン推定 * Unity/Unreal Engine による実時間フィードバックループ構築
進捗・成果(2024–2025)
* **ユーザ適応型視角制御アルゴリズム**を開発し、VR酔い指標を 35% 低減 * 国際会議 IEEE VR 2025 へショートペーパー投稿準備中
将来展望・応用
* **インテリジェントリハビリテーション**: リハビリ課題に合わせたモチベーション維持フィードバック * **パーソナライズド学習環境**: 学習者特性に応じた難易度調整と提示タイミング最適化
2. 擬似歩行感覚生成 / Pseudo Walking Sensation Generation
概要
実際に歩行せずとも**歩行しているかのような身体感覚**を創出することで、限られたスペースでも没入的な移動体験を提供する技術です。主に**触覚・前庭・聴覚**に働きかける多感覚提示を組み合わせ、歩行錯覚のメカニズムを解明・応用します。
研究課題
- 多感覚統合: 視覚と触覚提示の時間的一致が歩行感覚に与える影響は?
- 振動パターン最適化: 足底・下腿への刺激パラメータ(周波数・位相差)の最適解探索
- 省電力デバイス設計: ウェアラブルアクチュエータの軽量・低消費電力化
主な手法
* ピエゾ&リニア振動モータを用いた足底刺激マトリクス * 骨伝導スピーカによる聴覚‐前庭クロスモーダル刺激 * モーションキャプチャとリアルタイム物理シミュレーションによる身体・視覚同期
進捗・成果(2024–2025)
* 12 種の振動シーケンスを体系化した**WalkSense パターンライブラリ**を公開 * NEWVO 外骨格との統合プロトタイプで**移動没入感 +42%**(n=18)を実験的に確認
将来展望・応用
* VR サイクリング/ランニングゲームでの安全かつ高没入な運動誘導 * **歩行リハビリテーション支援**: 歩行感覚提示による早期荷重訓練 * 嗜好性に合わせたハプティックコンテンツ制作ツールの開発
シナジーと長期ビジョン
両研究は「身体と環境の知覚‐行為ループを拡張する」という ビジョンの下で相互に補完的です。
自由エネルギー原理に基づくユーザ状態推定を擬似歩行感覚デバイスにフィードバックすることで、
1. **個別化された歩行感覚**の最適化
2. **VR酔いの抑制と可動域拡大**
3. **神経リハビリ・身体拡張**への応用
を統合的に推進します。
連絡先 / Contact
- Email: tsubasa[at]cyber.t.u-tokyo.ac.jp
- ORCID: https://orcid.org/0009-0002-5444-1453
- GitHub: https://github.com/kaiba-yoha