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(まとめ)内受容感覚とは何か?-「感じる身体」の科学への招待 2025-10-03

まとめ認知科学脳科学内受容感覚意思決定

はじめに:「腹の虫」の正体に迫る科学

「胸騒ぎがする」「腑に落ちない」「直感が働く」。私たちが日常的に使うこれらの言葉は、身体の内部状態の感覚が、高度な思考や判断に影響を与えていることを示唆しています。この、心拍、呼吸、消化器系の状態といった、身体内部のシグナルを知覚し、利用する能力を**「内受容感覚(Interoception)」**と呼びます。

かつては認知の「背景」と見なされがちだったこの感覚こそ、感情や合理的意思決定の基盤であるという革命的な視点を、神経科学的に実証してきたのが、大平英樹教授(名古屋大学)らの一連の研究です。

本記事は、このエキサイティングな「内受容感覚」の世界への招待状です。全体像を掴んでいただいた上で、さらに深く学びたい方のために、各トピックを専門的に掘り下げた記事へのリンクを用意しました。

1. 内受容感覚は「どう測る」のか?脳の「どこで」処理されるのか?

内受容感覚の鋭敏さを科学的に語るためには、まずそれを客観的に測定する必要があります。研究では、意識的に自分の心拍を数える**「心拍知覚課題」のような行動指標や、脳が心臓の信号を無意識にモニターしている感度を測る「心拍誘発電位(HEP)」**といった神経生理指標が用いられます。

これらの感覚は、脳の島皮質前帯状皮質といった領域が中心となって処理されていることが分かっています。これらの脳領域は、身体からの信号を受け取り、それに意味を与え、私たちの感情や行動へと繋げる重要なハブとして機能しています。

▶︎ より詳しくは、こちらの記事で解説しています:深掘り解説:内受容感覚(1) - 測定法と神経基盤

2. なぜ「直感」は当たるのか? - 予測する脳と身体

内受容感覚研究の最前線では、脳を単なる受信機ではなく、**「能動的な予測マシン」として捉える「予測的処理モデル」**が主流となっています。これは、脳が常に「次に起こる身体状態」を予測し、実際の感覚との「誤差」を修正し続けている、という考え方です。

このモデルは、リスクの高い選択を前にした時に働く「直感」の正体を鮮やかに説明します。脳は、過去の失敗経験から「不快な身体の反応」を予測し、それが無意識のブレーキ(ソマティック・マーカー)として、私たちをより安全な選択へと導いているのかもしれません。

▶︎ より詳しくは、こちらの記事で解説しています:深掘り解説:内受容感覚(2) - 予測的処理モデル

3. なぜ「心」の不調は「体」に現れるのか? - 臨床応用への道

不安障害の動悸や、うつ病の倦怠感は、この内受容感覚の仕組みの不調として捉えることができます。例えば、不安は「身体からの信号」に対する脳の過剰反応や、過度にネガティブな予測が原因かもしれません。うつ病の気力低下は、そもそも身体からの信号を脳がうまく受け取れていない状態なのかもしれません。

この発見は、精神疾患の新しい診断法や治療法に繋がります。特に、呼吸や身体感覚に注意を向けるマインドフルネス瞑想は、内受容感覚の働きを正常化し、脳と身体の対話を円滑にすることで、症状を改善する可能性が示唆されており、世界中で研究が進められています。

▶︎ より詳しくは、こちらの記事で解説しています:深掘り解説:内受容感覚(3) - 臨床応用と精神疾患

おわりに

内受容感覚の研究は、「心」と「体」が分かちがたく結びついていることを、科学的な言葉で解き明かしつつあります。それは、自分自身の感情や判断の仕組みを深く理解するための鍵であると同時に、精神的なウェルビーイングを高めるための具体的なヒントを与えてくれる、非常に豊かで刺激的な領域なのです。


「内受容感覚」シリーズ記事

本記事は、内受容感覚に関する連続シリーズの一部です。

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